ブルーステルBW-393号機の撃墜マーク

1942年秋、レンポッティ(リョンピョッティ)Römpötti基地。
エイノ・A・ルーッカネンE.A.Luukkanen少佐のブリュースター・バッファローB-239:
「BW-393」号機の垂直尾翼に燦然と並ぶ撃墜マーク。
42年11月7日に撮影されたその写真は、フィンランド空軍ファンの目に馴染みのものである。

しかしその撃墜マークは、塗装されたものではなく
なんと、「ビールのラベル」だったのだという。
私は、それがいったいどんな色のラベルだったのか、
そしてその具体的なデザインも知りたくなった。

(件の有名な写真は、英国Osprey出版の「Lentolaivue 24(※資料1)」p.69(邦訳版「フィンランド空軍第24戦隊(※資料2)」p.71)、あるいは別角度のものが「フィンランド上空の戦闘機(※資料3)」p.145に掲載されており、これらが最も大判かつ印刷が良く、しかも最も入手し易いと思われるので、ぜひお手元でご参照いただきたい。)


 そもそもあの撃墜マークが、「ビールのラベル」であるということを私が初めて知ったのは、かのフィンランド空軍史研究の大家:K.ステンマンStenman氏とK.ケスキネンKeskinen氏が、1994年のその著作「Hävittaäjä-assät(Finnish fighter aces)(※資料4)」の中に掲載した「件の写真」に付けたキャプションであった。 あの17個の撃墜マークは、Karjaran olutpullon etikeillä/"Karelia" beer-bottle labels(=『カレリア』ビールのラベルだ)、とあったのだ。
 その翌年に再編集のうえ出版された、フィンランド空軍史シリーズ第1巻「Brewster model 239(※資料5)」p.56にも、同じ解説が付いていた。
 またルーッカネン氏自らが著した回顧録「hävittäjä lentäjänä kahdessa sodassa」(原著は未入手)の、1999年に出版された素晴らしい日本語版「フィンランド上空の戦闘機(※資料3)」p.145にも、「カレリヤ製のビールのラベル」という解説文が付いていた(残念ながら、その撃墜マークを施したことに関する回顧の既述はない)。

 フィン空ファンとしては、いつの日か模型で再現してみたいと思うマーキング・・・しかし、それがどんなラベルだったのか確かめようにも、1942年11月10日にはBW-393号機のパイロットがハンス・ウィンドH.Wind大尉に移り、その撃墜マークも改変されてしまったうえ、機体は1944年7月2日にソ連空軍の地上襲撃を受けて破壊されてしまったので原型を留めて現存していない。

 いや正確に言えば、BW-393号機そのものはオリジナルの塗装を残したまま(!)、ヴァンターの航空博物館に現存している・・・・・部分的に。 「あの」垂直尾翼さえも!!(→「実機写真集」参照

 1996年冬、私はヴァンターの航空博物館で、初めて実際にBW-393号機(の遺骸)に触れた。 この世界一の撃墜数を誇る、フィンランドの空を守った歴史的な一機を前に私は、心の底から沸き上がって来る畏敬の念を禁じえなかった。 もぉ、泣きそうにさえなっていた。

 しかし、先に述べた理由(パイロット変更に伴うマーキングの変更)のため、そこに往時のビール・ラベルの痕跡を見出すことは出来ない。


 さて、これまで語られてきた「KARJARA/カルヤラ(因みに「カルヤラ」とは、フィンランド語でカレリア地方のこと)」というビールとは、いったいどんなビールなのだろうか?

 実はこのビール、戦時中のみならず今現在も、フィンランドで広く親しまれているビールの銘柄のひとつであり、フィンランド各地の酒屋さんで見かけるものなのだ。
 酒を飲まない私ではあるが、ここはひとつぜひ手元に持っておきたい・・・・・!!

そんなわけで、何度目かの渡芬のおり
タンペレのスーパーマーケットで買ってきた。↓

(中身は飲んでからスーツケースの中に忍ばせて持ち帰って来た。空きビンなんぞをこんなに後生大事に持ち帰ることになろうとは!)

おお・・・・・、赤い!!
 もしもこのラベルのデザインが戦時中のものとほぼ同じであれば、これまで白黒写真で想像するしかなかった色調は、実はこういう「赤」を基調としたデザインであることが判明した! 内側部分は黒で、王冠の紋章と麦芽の模様が金色、白抜き文字で「KARJARA」。 長円形のラベル・デザインも、手に取るようにわかった!(←そりゃ「手に取ってる」からな!)


 その後も我が家のフィンランド渡航は繰り返されているのだが、2004年の春に、たまたまユヴァスキュラの駅でヘルシンキ行きの電車を(えんえんと!)待っている間に遭遇、撮影したものが左の写真。

カルヤラ・ビールは、
配送車も・・・赤い!
(^^)


(余談だが、WRCのフィンランド・ラリーの中継なんかでも、コース沿いに張り巡らされた「KARJARA」の大きな広告を見ることが出来る)

 ・・・・・ほほぉ、そーか。 こんなビールだったのか。 さて、これでBW-393号機の撃墜マーク=「KARJARA」のラベルがどんな色とデザインだったのかが、ハッキリと理解できた。 ただし戦時中のラベルが、果たして現在のラベルと同じ色とデザインなのかという点が、疑問&最大の関心事として気になっていた。


・・・しかしこの直後、
予想だにしない事態が、
我々取材班を襲う!!
その衝撃の展開は・・・


この後すぐ!!


※ 主な参考・引用資料


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