”なんで履帯のセンターガイドが転輪シャフトに当たらないで済んでるんだ〜疑惑”
PHASE:5
Suomen Landsverk Anti:n misteerio


 対空戦車「ランズヴェルク・アンティII」(実機写真集「ランズベルク・アンティ」参照)・・・その上部支持転輪軸の謎は、遂に・・・解けた。
 上部転輪のシャフトをゆうに超えてしまう、長すぎるほど長いセンターガイドをクリアするために・・・なんと驚くべきことに・・・シャフトがUの字形に削られていたのであった。 それも軸の半分以下の深さまで削り込まれていて、外側の転輪(それなりに重いし、回転して振動もする)を支えられる「薄さの限界に挑戦!」した結果のような形状だったのである。
 この項では、2008年お盆の候、ワタシが実際に確認できた現存車両のそれについて、詳細を見ていくことにする。

 まずは前項にてタヌタヌ岡田氏が報告してくれた、パロラの屋内展示車両(Ps.455-5号車):
 遂にあの「恥ずかしい部分」に触れた瞬間(鼻血ぶー!)

 岡田氏からの報告の通りUの字形に・・・・・あいゃー、驚いた! 驚いた拍子に、当初予定していた転輪の直径や軸の太さを計測することをすっかり忘れてしもーた(←アカンがな!)。 まぁ、なんにしても「初めてあの神秘の部分に触るとき」というのはまともな精神状態でないもんである(←なんか勘違いしてはる)。

 土がこびりついたままだったので、指を突っ込んでグリグリしてみたが、固く固着した土はなかなか落ちてはくれなかった(展示物として現状保存しておくべきだと考えたので落とさなかった)。 履板の長い長いセンターガイドを以ってしても、決して落ちなかった頑固でしつこい汚れである。
 センターガイドの先から「しつこい汚れにマ○ックリン」とか、「ホームクレンザー・○フ」など噴射されるようになっていればよかったかも知れない(!)。

 他の個体も確認した。 続いてもパロラの展示車両だが、武装の無い状態で屋外展示されている、Ps.455-1号車のそれ:
 車両の保存状態はコイツが一番悪いのだが(それでもこのハイ・レベル!)、可動していなかった分だけ上部転輪軸は最もクリアに検証できる・・・が、
 さっきとカタチが違うやないけ!
 なんとこの車両ではUの字形ではなく、五面の多角形状に機械で切削されている。 断面はツルッツルである(当時どうやったんだろう。フライス盤?)。

 「Uの字削り込みタイプ」「五面切削タイプ」って・・・。
 上2つの車両ではいずれも、左舷側の第一上部転輪(最前部)の軸を前方から撮影したのだが(というのも、それ以外の位置では撮影しづらいのだ。位置が低い上に、長いセンターガイドがとことん邪魔になる!)・・・もしかして・・・
 問題の部位の加工には個体差があるのか!?(なんてこった!!)
 このPs.455-1号車の第一上部転輪の軸は五面切削タイプだった。

 ひょっとしたら・・・とイヤな予感がして、反対側に回ったついでに、第三上部転輪の軸も見ておいた。 見てみたところ、やっぱり驚いた。

 なんてこった!! 切削形状が違うっっ!! 明らかに第三転輪軸はUの字タイプだーっっ!!

 ワタシは頭を抱えてしまった。
 実地に調査して確認、謎を解明するためにここへやって来たというのに、謎が解けたどころかこれではその・・・・・要するに、ますます混乱を来してしまったのだ。

 上部転輪の位置によって軸の加工方法が違う・・・

 今回ワタシが確認したアンティは3両である。
 取るものも取りあえず(←まったく文字通りだな)、最後に検証したのは、対空兵器博物館の展示車両(Ps.455-6号車)。 第一転輪の軸である:
 今度はまたUの字形のようだ。 「ようだ」というのも、断面はかなり削れてしまっており、底部は土ががっちり固着していて落ちなかったからである。
(しかし五面切削タイプのようにも思える。あるいは、「Uの字タイプだと思ったら、五面切削タイプの角が削れて丸くなってしまったもの」とも考えられる・・・あー)


 なんてことだ。
 上部転輪の位置によって軸の加工方法が違うのか?
 そのうえ個体によっても違うのか?
 生産時期によるものなのか、ランヅヴェルクさんの気紛れか??
 ・・・また確認して来なければならなくなったじゃないか!!(得てして考古学調査とはこういうものなのではないだろうか。 今回現場でそのことに気付けばよかったのに、バカな野郎だ!・・・と思うのは、帰国して落ちついてからのことである。 海を真っ二つにしている真っ最中のモーゼを押しのけて、それがどんな仕掛けなのか落ちついてじっくり調査できたエジプト人がいただろうか?)



 言い訳したり煮詰まっていたりしても仕方がないので(!)、さらにここで、タヌタヌ岡田氏からその後に提供していただいた、違う角度から見た興味深い写真をご覧に入れる(他にも何枚かこの部分にだけ執着した写真を送っていただいた、kiitksia!(~o~) これで、そのうちD社からインジェクションキット化される!・・・??)。
 パロラのPs.455-5号車の問題の部分を、なんと真下から撮影した写真である:
 ・・・神秘の世界。
 物理的に円柱を削り込んだ結果「くびれ」が発生し、シャフトは見かけ2/3近くしか肉を残していないことがわかる。 まさに強度の限界に挑戦的である。

 直接関係はないが、車体側軸受けの裏側には大きなボルト(オイル充填口?真下に?)がハッキリ見える。 スクラッチする(するのか??)時の参考にしよう!



 ・・・こうして、「なぜ履帯のセンターガイドが上部支持転輪の軸に当たらないで済んでいるのか」の謎を解いて来たのだが・・・いやいや、いみじくもさらに謎は深まってしまった。 そもそも、「なぜそこまでして履帯のセンターガイドを長くする必要があったのか」という根本的な疑問に解答が得られていないし、「シャフトの削り込みにバリエーションがある」という新たな発見までしてしまった。
 我々の冒険はいま始まったばかりである・・・(なんてこったーっ!信じられなーい!ふざけるなーっっ!!んな締め方あるかーーっっ!!また「○曜スペシャル」「UFO特番」とおんなじかーーっっ!!お叱りの声が・・・あーごもっともごもっとも)

 この頁では最後に、履帯の詳細と寸法について記述しておきたいと思う。

 これがアンティさんの履帯。 シンプルなシングルピン・シングルブロック。 接地面の鉛色だけが鈍く輝く。(Ps.455-5号車)


 全幅(写真向かって横の幅):約283mm
※オリジナルであるL-60軽戦車の資料では、「286mm履帯」としているものがある

 全長(    〃   縦の幅):約110mm
 ・・・あの長い長いセンターガイドは履板にやはり、わざわざ、一本一本、いちいち・・・溶接してあった。
 いやはや、まったくご苦労なことである。

 ところでこの写真は何かというと、バキッ!と折れたセンターガイドに注目したものである。 溶接が不完全だったのか(言われてみればこの溶接痕だけが異様に盛り上がっていて汚い)、根コソギもぎ取られている。(Ps.455-6号車)
(Ps.455-5号車)

 センターガイドの長さ:約115〜6mm

 センターガイドの幅(根元):約40mm
 数値には「約」「〜」を付けた。 あくまで素人計測の「概寸」であることをご了承願いたい。
 実車(戦車に限らず)の計測をしたことのある人ならわかると思うが、概してイビツなものにメジャーをあてがうだけなので、正確な数値など出せない。 ましてや履帯は、メジャーを当ててみると、磨耗したことを差し引いても(それ故ここでは予備履帯を測ったが)、一枚一枚大きさがビミョーに違うもんである。 それに何より、計測には思った以上に時間が掛かる。 ここでアンティさんの脚にだけ時間を費やしていたら、他の車両を見るどころか、どこにも行けなくなるのだ! そしてヨメはんのご機嫌を損なうのだ!



・・・つづく?(続けざるを得んわな、こりゃ!)

2008.08.27(か)

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