”なんで履帯のセンターガイドが転輪シャフトに当たらないで済んでるんだ〜疑惑”
Suomen Landsverk Anti:n mysteerio


 フィンランド陸軍の使用した対空戦車「ランズヴェルク・アンティII」(実車写真集「ランズベルク・アンティ」参照)。 生産国であるスウェーデンから継続戦争中(1942年3月)に、たった6輌しか購入/配備されなかったにもかかわらず、(確認できるだけで)今も4輌がフィンランド国内に現存している。 しかも可動状態にレストアしてある車両まである。 これほど恵まれた車両ならば、謎らしい謎はなにひとつ残ってはいまい。 パロラの戦車博物館やトゥースラの対空兵器博物館で実際にアンティを目の当たりにすること数回、謎といえばせいぜい、「これほど(資料的/史料的に)恵まれていながら、なぜどの大手模型メーカーもインジェクション化してくれないのか」という(ごく希な、そして企業の営業活動を度外視の)いちゃもんぐらいである(!)。

 いちゃもんついでに書くと、「LANDSVERK」を表記するに当たって、「ランズベルク」「ランヅベルク」「ランズヴェルク」「ランヅヴェルク」「ランドスベルク」「ランドスヴェルク」・・・なんと表記すれば良いのだ。 っていうか、どう表記すれば各社のサーチ・エンジンにヒットされる機会が多いのだ?? 閑話休題。


 (対空戦車をはじめ、えてして「ある任務に特化」した車両とはそういうモノなのだが)個性的で不思議なカタチの車両であることと、数少ない(唯二つ?の)フィンランド・オリジナル車両(とも言い切れぬ)ということに魅力を感じていたのだが、2003年のある日、それまで思いも寄らなかった点に気付かされた(「ある日」ったって、こんなことを話し合う機会は静岡ホビーショーの合同展示会であることは言うまでもない)。
 それを指摘してきたのはまたしても河馬之巣オーナー:かば◎氏。 私が撮影してきた、パロラ(戦車博物館)やトゥースラ(対空兵器博物館)のアンティの写真を前にしていわく・・・

 「これどう見ても・・・上部転輪の軸とキャタピラのセンターガイドがぶつかってるんだよねぇ。変なんだよ・・・オカシイんだよ」

フィンランドの対空兵器博物館所蔵の車両。
クリックすると拡大画像飛び出し

 よく見ると・・・うん、確かに・・・オカシイ。 ・・・見れば見るほどオカシイですよ、変ですよっ、けったいですよーっ!!
 明らかに、上部転輪の半径(正確には「上部転輪上端から軸までの距離」)よりも、履帯のセンターガイドの長さの方が・・・長い・・・長すぎる!
 長すぎることを端的に示すように、所々でセンターガイドはバキボキ折れているっ!

 いったいぜんたい、なぜこんなにセンターガイドを長くする必要性があったのだろうか? このL-60系列が開発されたスウェーデンという地勢を考えると、フィンランドと同じく、積雪地帯での行動を前提にされていることであろう。
 つまりこれは転輪と転輪の間に否応無しに詰まる雪と泥を(強引に)押し出し掻き出すための「スクレーパー」としての効果を狙ってのことだろうか?(履板のセンターガイドにそんなコトさせるから、バキボキ折れるんではないか!)
 それ故に転輪も円盤・皿型ではなく、裏表が互い違いになった素抜けのスポーク型(頑丈な鋳造製である)になっているのだろうか? 車体下部(ハル)の低部構造が(ただでさえサスペンションのトーションバーが貫通する車内の容積を減らしてまで)台形を逆さにした形状にしてあるのも、行動する地理的な事情と関係しているのではなかろうか。


 自身が主催した「多国籍モデリングの会」展示卓を前に、アンティの上部転輪について一席ぶつかば◎氏と、驚くべき指摘に驚嘆、呆然とする周辺の人々、開発を急がれる模型メーカー各社と、特集を組む各誌取材陣。 (ウソ)

「我々には一個もランズベルク・アンティのプラモが無い。これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!
 ドイツや連合国に比べ我が小国プラモの数は30分の1以下である。にも関わらず今日までプラモを作ってこられたのは何故か!諸君!我が小国モデリングの趣味と考証が正しいからだ!
 一部の静岡のエリートが世界中にまで膨れ上がった模型業界を支配して50年、プラモ好きの我々がキット化を要求して、何度○○○
(検閲削除)に踏みにじられたかを思い起こすがいい・・・(中略)
 私の好きな・・・諸君らが愛してくれたランズベルク・アンティのプラモは無かった・・・何故だ!
 ランズベルク系戦車もニムロッド対空戦車も、高価で入手困難でグズグズでアレなレジン・キット化すらままならない。この悲しみも怒りも忘れてはならない!それをアンティは上部支持転輪の軸を以って我々に示してくれたのだ!我々は今、この怒りを結集し、メーカー各社に叩きつけて初めて真の勝利を得ることが出来る。この勝利こそ、フィンランドAFVマニア全てへの最大の慰めとなる。
 モデラーよ立て!ピンバイスを焼き針に変えて、立てよモデラーよ!小国ファンは諸君等の力を欲しているのだ。
 らーんづべるく、あんてぃ!!」

(AD2003/05/17。SHS・モデラーズ合同展示会にて。撮影:せいもく氏)

 かくして、「謎」を究明する旅が始まった。
 私が撮影してきたアンティの他の写真も見て見たが、我ながら腹の立つほど該当個所が写っていない。 アンティの写真が載っている資料を漁ってみたが、やはり上部転輪の軸に注目した写真は見当たらなかった。 見えそうな写真はあるのだが、場所が場所だけに必ず影になっていて、見えそうで見えない。 よほど恥ずかしいコトになっているに違いない(!?)。
 同じ足回りを持つトルディやニムロドについても同様だ。 やはりこれは現場に調査しに行くしかないようだ。 その上かば◎氏はこれを最後に、一時消息不明、いや雲隠れしてしまうし。

 しかして、時ばかりが虚しく過ぎていく・・・。

 果たしてアンティやそれと同じ足回りを持つ車両は、本当にキット化されていないのか。 また模型化されているならば、謎の部分・・・上部転輪軸は製品ではいったいどう解釈されているのか・・・? 気になる向きは「PHASE:2」へ進もう

2003.05.〜2008.07.15.(か)

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