フム戦闘機(HM-671)

冬戦争終結直前に米国より送られたブリュースター・バッファローB-239戦闘機を、フィンランドが国内生産した(・・・しようとした)もの。
優れたパイロットにも恵まれた結果、継続戦争でめまぐるしい活躍をした(フィンランドでは)名戦闘機・・・そんな機体をコピーしようとしたのは理解に苦しくない話で(ブルーステルが大活躍した頃には、すでに米国/連合軍の敵:ドイツと共闘していたわけで、当然これ以上輸入できるはずもなかった)、1942年10月には空軍から90機の生産注文が出されました。全金属製であるオリジナルに対し、主翼は木製(アルミやジュラルミンは高価で貴重)、エンジンもオリジナルのライト・サイクロン9 R-1820に対し、捕獲したソ連製シュベツォフM-63を積む、という形で計画が進められました。
まず1942年秋に木製の翼が試験的にブルーステルBW-392号機に取り付けられましたが、43年6月に事故で失われたこともあり、計画は遅々として進まず。 しかも性能は期待外れのまま・・・44年6月には注文キャンセルとなり、プロトタイプ1機(本機)が完成、45年3月までテスト飛行をしたのみに留まりました。
フムHumu」という名称は、「humu!humu!」という風のうなる音のこと(「向こう見ず」「破天荒」といった意味があるように聞いたこともあるが・・・)であり、量産されてもその頃のソ連機やドイツ機に太刀打ちできる能力はほとんどなかったであろうこと(そもそも速度が遅過ぎる。大活躍したオリジナル・バッファローでさえ最高時速520kmだったのに対して、フムの最高時速は430km!)を、いみじくも表したようにしか思えません(苦笑)。
なお、この試作機は1947年の試験飛行を最後に、現在はフルレストアされて中央航空博物館でその余生を送っています(因みにオリジナルの「ブルーステル」は、その全機が戦中から戦後1950年代までに大往生→see:航空博物館のBW-393号機の残骸中央航空博物館の特別展示BW-372号機





全景。
手前にはソ連製M-63エンジン(フムにはもちろん、エンジンの損傷したブルーステル数機にも搭載された)なども展示されていました。




機首右側。排気管の並び方がオリジナルのバッファローとは異なります。




右主翼前端。大きな着陸灯も特徴的です。
オリジナル・バッファローでは翼内機銃(ブローニング12.7mm)が据えられていましたが、本機では翼が木製である関係上内蔵されていません(よって武装は、オリジナルと同じ位置のカウル上の2門のみ。ただしその機銃もソ連からの捕獲品:ベレシン12.7mm機銃)。




エンジンカウル周辺。
内蔵されたエンジンに「M-63」のステンシルがあり、間違いなく「オリジナルのバッファローではない」異様な雰囲気を醸し出しています。
(そもそもサイクロンエンジンをソ連がライセンス生産したのがM-63。さらにそれをドイツが捕獲して、フィンランドに売却。さらにそれをコピー生産した米国戦闘機に積む・・・戦争というものがいかに不条理であるか、こんなところで感心してしまったりして)。




カウル上部、冷却用エアインテーク。その口の形状にも注目。




左主翼下部、脚収納部基部外側周辺。
翼内機銃も翼内燃料タンクもこの木製翼には仕込まれていませんので、翼表面のディテールやパネルライン(パネルなんてないのだが)はバッファローとは異なります。
また、この木製翼はオリジナルの金属翼よりも弱いのはもちろんのこと、なんと250kgも重たくなってしまったそうです(!)。



主脚収納庫内部(胴体左側)。




主脚(左側。補強のためにシリンダー下部を支柱で支えられていますが)。




主脚及び収納部(右側)。




胴体右側、救命キット収納部ハッチ付近。




後部、垂直尾翼周辺。
本機については、1985年4月のモデルグラフィックス誌でもクリアな写真や、ブルーステルの素晴らしい作例の数々とともに、詳細が掲載されていました。
(因みにそのひとつ、市丸久氏の見事なBW-364号機の作例は、がらんどう氏主宰の「JG109」のギャラリー内で今も観ることができます)




胴体下部の封鎖された観測窓。
・・・って、おいっ!!
オリジナル・バッファローはもともと空母艦載機として設計されていたため、コクピット直下に、着艦時に必要な前方下側の視界を確保するための窓があったのですが、フィンランド空軍では不必要として(もちろん海軍にも空母なんてあるはずがない!)、その機体や時期によって、鉄板で塞がれたりペンキで塗りつぶされたりしている機体が多かったのですが・・・
そんな「不必要なはずの窓」を、コピーしてこれから量産しようとした戦闘機にご丁寧に再現していたとは・・・これには驚いた(!) →別ウィンドウで拡大写真




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